川村ユキハルの毎日2

湘南茅ヶ崎界隈のいつもの暮らしぶり。 仕事の話や思うこと。再び。

インセクト・マイクロエージェンシー創業期の話  第4回

<第四回 企業として一人前になるために 2017−2019>
我々は、インスタグラム連携という単機能としてのサイネージシステムである「FLOW」を提 案する中で、顧客や提案先からのリクエストや、反省点を考慮し企業にとって様々な形で導 入しやすいように、次々とサービスを発表していくことになった。また、その中で新しいパ ートナー企業との出会いも多くなり、刺激があった事も大きい。弊社は営業力は人がいない 為に弱いが、新しい商品サービスの発表をしていくことで注目をして貰おうとしたのだっ た。そのサービスとは、
1)インスタグラムに加え任意の動画や他社広告の放映(による売上のしくみもビジネスス キームとして構築し契約)が放映ロールに組み込まれた 「FLOWCAST」

2)上記仕様に加え、導入先依頼によるカスタマイズが可能な「FLOWCAST ENTERPRISE」 後に(1)(2)は統合
3)インスタグラム画像に最適な正方形ディスプレイの輸入販売企業と提携し、バンドルし た設置も手軽なインスタグラムサイネージディスプレイ 「FLOW SQUER SIGNAGE」

4)4D 地図表現のシステムを有するオギクボ開発との共同開発した時間軸を持ったマップ型 サイネージ「FLOW MAP 4D」
である。
このようにサービスを増やしていき提案力の向上を底上げしようと試みた。
また当時ハー ドウェアスタートアップも IOT バブルによりもてはやされており「shigusa」というコミュ ニケーションガジェットを我々もスタッフィングして、プロトタイピング製作までするも のの、開発が進み、調べるほど幾つものハードルがある事を知り、またそれは我々の過去の キャリアやノウハウでなんとか出来るレベルではない為(もちろんファブレスとして想定 したものの、それら進める過程で果たして最適かどうかの意思決定が自分ではできないと いう判断)、よって、しっかりビジネススキームに乗せるまでもなく、残念ながら撤退をき めた。あまりに稚拙といえばそれまでだが、考えてすぐ挑戦してみる環境というのは小さい 企業の醍醐味でもあるので、楽しくよい機会となった。だがこれも多額の勉強代を支払うこ ととなってしまった。 
ビジネスにおいて、大手製造業に対するある種の畏怖や、その奥深さを改めて感じるのと 共に、調達し製造することはもちろん、流通も販売もサプライチェーンを構築する大変さ、 大切さを改めて実感することになる。撤退自体はもちろん悔しかったが、後々のビジネス設 計において、これも身をもって勉強したことが、自社サービス商品を安全に供給をしていく

ためのヒントとなる事で今後役立っていく。


様々な事に試行錯誤しながらも、必死に(といっても悲壮感はなく毎回夢中で、懲りずに 楽しんでいたからこそ続けられる訳だが)地道に様々な企業様に企画提案活動をしている 中で、ご紹介やご縁もありネイルサロン企業へ FLOWCAST ENTERPRISE が 70 台近い導入を決 定頂いた。
毎回一企業に対し 10 台未満だったのが初めて一挙に 70 台である。ハードウェアは東芝さ んに依頼し、そのディスプレイにバンドルする形でシステム導入と運用をされ、初めて関東 近郊から様々な地域でのサービス展開となった。また、初めてリース企業とも提携して関係 を構築していく。外部の広告運用もシステム連携をしており業務としてメディアレップと しても広告代理店等に対し営業し始めていた。

 多店舗での運用保守ノウハウをここで身につけることになるが2年続けて頂き、3年目に 残念ながら外部の広告があまり決まらない事により撤退を告げられる。交通系サイネージ とは違い、残念であるが店舗サイネージ広告のネットワークは大手広告代理店を中心に戦 略的にまた合理的に取引される為にはまだ黎明期であり、原始的な雑媒体的な扱いと取引 形態のためどうしても各広告営業マンや出稿したいクライアントの目には届かず、またそ うだとしてもボリュームとして纏まらないため購入決定に至らず苦戦していたのは確かだ った。あまり落胆はなく、これも時間の問題と思い、今までの知見や関係各社との連携はそ のままに、次に繋げようとしていた。我々の仕組みのプラットフォームによるサイネージの 広告ビジネスは、今後も重要な位置付けであり、もちろんすぐにでも多く売り上げたいもの だが、それだけで商売をしている訳ではないので、冷静に状況を見ていたこともあった。
その後、全国で破竹の如く出店展開を推し進める 24 時間ジムのエニタイムフィットネスを 運営する Fast Fitness Japan(以下 FFJ)さんとの出会いにより、今までのノウハウと反省 と知見、もちろん自社システムの FLOWCAST ENTERPRISE による店舗コミュニケーションス キームの提案を重ね採用されることとなる。これも我々としてはいつも同じ気持ちで提案 しているものの、FFJ さんは企業として、この仕組みについての導入の判断は少し先を見据 えた形での英断だった事と思う。 色々と導入されるまでの思い出深い経緯は沢山あるが、長くなるので過程は省略とさせて いただいて、そのことにより一気に数 10 から当初 400 店舗。今では全国 700 店舗にシステ ム、サービスが導入され展開し運用される事となった。また同時に外部からの広告放映スキ ームも展開する。
24 時間ジムである以上システムはもちろん365日 24 時間稼働して欲 しい。コストは抑えたい。というリクエストに頭を抱えながら、このチャンスを断る理由は ないと社員全員はもちろんパートナーと様々な手段やシステムのチューニングを重ね実現 が可能という所まで漕ぎ着ける。
24 時間ジムはスタッフが少ないため、また 24 時間四六 時中スタッフがいる訳でもないため、店舗と会員にとってのお互いの「窓」となるサイネー

ジは大切である。
ヘルシア TV」と愛称を名づけられた、このサイネージによって本部のブランド訴求や全 体に届けたいメッセージは勿論のこと、利用に関する個々の店舗のメッセージや会員様と の繋がりなどを各店舗スタッフの皆様が生き生きとした表情により、サイネージにアップ ロードされ、会員の皆様とのコミュニケーションの一助となっていることが次々と確認す ることができた。スタッフの皆さんや会員の皆様の笑顔のコンテンツを見ていると、我々が めざしていたサービスはこういうことなのだと感激である。本部の大きなコミュニケーシ ョンのストロークと各店舗での自発的な小さな無数のストロークが同時に展開される。700 店舗それぞれが自店のメディアを持つということはこういう事なのだ、この総量こそがエ ニタイムのブランドパワー総量としてゆっくり確実に積み上がっていく。
最初の頃は規模 もあり(毎度だが)不具合もでてしまい、ご迷惑をかける事も多々あったが、赤津以下社員 スタッフの頑張りにより安定し稼働している。
これらも構築する上で必要な、新たな社内 制度の取組みや伴う運用ルールなど、全てにおいて FFJ の本部の関係者皆さんに親身に情 熱を傾けて推進頂いたことも重要な事であった。これらがあって初めて、先方にとっても 我々にとっても新しい、そしてユニークな店舗コミュニケーションインフラの仕組みが構 築できたのは言うまでもない。
これは勿論今でもチャレンジ中で日々進化を繰り返している。まだまだな部分もあるし、店 舗の皆様にはもっともっと活用いただく為に我々は努力せねばならない。 安定したサービスを提供する為にこれを機に、保守供給サイドの調達パートナーとの発注 スキームも整備され、新店舗による設置依頼、不具合店舗の対応もスケジュールに則ってサ プライ、サービスできるようになってきた。
機材をもって自分が駆けつけ設置するという 立ち上げ当初からすると、なんといういっぱしの会社のようではないか! 笑われてしまうのは承知だが、他所様から見てもやっとここまできて普通の会社らしい体 制が作れたのはありがたかった。クライアントだけでなく、供給元である取引先企業との関 係というのも非常に大切である事もこれらを通じて身をもって知ることになったからであ る。当たり前だが、小さな企業は質はもちろん、取引量がないと相手に信用されないし、全 てにおいて洗練されていかないものだ。起業してもうすぐ 10 年という所で、このようなと ても重要な事をこの仕事を通じて様々なステイクスホルダーに教えて頂くこととなった。 立ち上げてからずっと、大手メーカーや販社や商社など、取引条件が厳しかったり、口座を 開けないと審査されたり、また暗にのらりくらりとオタクとは付き合えないよ、という対応 をされる事が当たり前になっていたのもあり、その度に「今に見てろ」と思いながらも一方 では仕方ないかとも感じていた。それが当たり前の前提でなんとかやってきたが、サラリー マン時代はその信頼の輪の中で取引が出来てきたんだなと今、染み染み思う。 それを考えると歴史ある企業というのは伊達じゃなく、大変な事をなし続けていることな のだということも実感を持って気付く事であり、これも起業したからこその発見であった。

一人前の企業になるためには、まだまだなのは百も承知だが、様々な波に揉まれ続けながら 何が重要かを少し理解できたのは、一人前の企業へのチケットをやっと 1 枚貰ったのでは ないか。 そうとも思う。